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November 16, 2006

日本橋から

日本橋のギャラリーパストレイズというところで、恒例のオマージュ瀧口修造展をやっているというので出かけた。
ていうか、つい何日か前まで知らなかったんだよ。今オマージュ瀧口展やってるって。
東京アートビートにも出てないしなあ。美術手帖とかには載ってるのか? しかし、私は毎月美術手帖を買ったり立ち読みしたりしたりするようなマジメな美術ファンではないし。そろそろオマージュ瀧口展の時期かなあとウェブを検索してみたら、偶然すでに会期中であることを知ったのだ。いやはや。

オマージュ瀧口展も今回が第28回だという。すごいねえ。今回取り上げるのは、写真家の大辻清司。というか瀧口マニア的には実験工房の大辻清司。まだやってなかったんだ、という意外感が先に立つ。
会場のギャラリーパストレイズという場所は始めてだ。雑居ビルの二階に上がって、ギャラリーの中に入ると、奥に佐谷和彦氏の姿が見える。むろん、佐谷氏はいち美術ファンにすぎないぼくのことなど覚えてくださってはないだろうが、昨年、前回のオマージュ瀧口展を有楽町のフジテレビギャラリーに見に行ったとき、やはり会場に佐谷氏がいらして、親しくお声をかけていただいた嬉しい記憶がある。今回も、なんとなく目が合ったのをいいことに、ずうずうしくこちらから声をお掛けして、お話をさせていただくことができた。こうして瀧口修造の空気を、間接的にでもいいから吸い込むことができれば、ぼくはいいのだ。

今回展示されているプリントは、大辻氏のご遺族の了解のもと、この展覧会のために新たにネガからリプリントされたものだそうだ。
メインの展示室には、1950年前後から70年代くらいまでの作品が並ぶ。この中でも、例えば、2枚のネガを重ねてプリントしたという、頭部の彫像と曲げた鉄板の融合するイメージなどは、もしかすると今回のリプリントのおかげで目にすることができたものかも知れない。
また、このギャラリーには展示室とは別にお茶が飲めるスペースがあり(最初、佐谷氏もそこに腰掛けていらした)、そこには瀧口没後の1980年に大辻氏が撮影した瀧口修造の書斎の写真が展示されている。これらの写真も、いくつかのものは既にどこかで目にしたことがあるはずなのに、主のいない書斎をさまざまな角度から撮影した写真を見つめていると、どれも実に興趣がつきない。加えて、今回は大辻氏の展覧会という思いで見ているせいだろうか、全体の構図や写されたモノとモノとの関係の中に写真家の視線を再認識することになる。

* * *

ところで・・・。
展示されている写真を見ていると、ギャラリーのスタッフの方が話しかけてきて、あれこれと作品について説明をしてくれる。
今まで画廊に行ってこんなふうに積極的に説明を受けたことなどなかったので、最初のうちはスタッフの方のお話を好ましく聞いていたのだが、そのうちに話の流れが、ある人はやんわりと、またある人はズバッと直球で、展示されている写真を買いませんか、という方向になっていくので、思わず苦笑させられた。
確かに、貴重なものなんだろう。遺族の了解のもと、しかるべきプリンターによって忠実に制作されたオリジナル・プリントというのは、今後そう入手できるものではない。写真のことはよく知らないけど、話を聞いているうちに、なんとなくそんな気にさせられてくる。
プリント1枚10万円、フレーム付で12、3万円ほどか。
まあ、買いません。でも一瞬、もうすぐボーナスも出るしな、と考えてしまった。
しかし、世の中には、「版画展やってまーす」とかいう若い女性の甘言につられて店の中に入ったために、実際には二束三文の値打ちしかないような版画(?)を何十万円で買わされてしまったような人がいるでしょう。
そんな人の気持ちが、ちょっと分かったような気がした。
いや、むろん、このギャラリーがそういうやり方の商売をしているということではありませんので、誤解のないように。
ぼくが言いたいのは、まあ、これは美術品に限らないんだけど、商売人と客とが言葉のやり取りを重ねていくなかで、客が何かモノを買ってみようと思い至るまでの心の動きを追体験できた、ということです。大げさかな?
要するに、ギャラリーって、お店なんだよね。本当は。
それって、考えるまでもなく、当たり前のことなんだけど。でも、銀座の画廊に現代美術のインスタレーションを見に行ったって、こっちだって買うつもりはないし、向こうだってどうせ買わないだろうと思っているんだろうし。だから、大抵は、商品だということを意識せずに作品を見ている。
写真の場合は、美術作品よりは、商品として手ごろなんでしょう。だから、商売っ気が表に出てきやすいんだな。今回、こちらがまったくそういうつもりのないところに、不意に商売っ気を出されたことで、改めて画廊というものの本性が分かった。
こんなことを書いて、毎日現場で切った張ったをやっている、プロの美術家やギャラリストは笑っていることでしょう。所詮、シロートの美術ファンのナイーブな言い草だな。

* * *

第28回オマージュ瀧口修造展「事物と気配−大辻清司の写真」
会場: ギャラリーパストレイズ
スケジュール: 2006年10月27日 〜 2006年11月18日
住所: 〒103-0027 東京都中央区日本橋2-1-17 丹生ビル2F
電話: 03-3516-3080 ファックス: 03-5299-4164

投稿者 yhiraki : November 16, 2006 07:03 PM | 東京アートニート
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